簡易金継ぎと本漆の違い|新うるしはどっち
簡易金継ぎと本漆の違い|新うるしはどっち
金継ぎは、割れや欠けのある器を直し、使い続けるための漆芸である。工房では、割れた茶碗を持ち込んだ人から「手軽なキットで直したけど食べていいか不安だ」と相談されることがあり、その疑問に答えるには、まず本漆、簡漆、簡易の三つを用途で分けて考えるのが近道です。
金継ぎは、割れや欠けのある器を直し、使い続けるための漆芸である。
工房では、割れた茶碗を持ち込んだ人から「手軽なキットで直したけど食べていいか不安だ」と相談されることがあり、その疑問に答えるには、まず本漆、簡漆、簡易の三つを用途で分けて考えるのが近道です。
食器として使うなら本漆か簡漆、飾りやインテリア、練習なら簡易で十分だと最初に決めてしまえば迷いません。
とくに2025年6月1日に食品衛生法のポジティブリスト制度が本格施行されてからは、簡易金継ぎで使う合成樹脂や新うるしが食品に触れる部分に原則使えなくなったため、手軽さだけで選ぶ判断は通りにくくなりました。
目的別の早見表:あなたに合うのは簡易・簡漆・本漆のどれ
金継ぎは、使い方から逆算すると迷いません。
食器として毎日使う器は本漆か簡漆、飾り棚に置く器や練習用なら簡易で十分です。
教室の初回相談でも、器を「食器ですか、飾りますか」と分けるだけで、ほとんど方針が決まります。
食器として使うなら本漆または簡漆を選ぶ
食器として口や食べ物が触れる器なら、本漆を軸に考えるのが自然です。
天然漆で接着から仕上げまで行う本漆は、完全硬化すると熱・水・アルコール・弱酸に耐える被膜になり、長く安心して使う前提に向いています。
合成樹脂で下地を時短し、仕上げだけ天然漆にする簡漆も、食器用途へ寄せやすい中間解だと言えるでしょう。
食器に使うかどうかは、見た目より先に安全性で決めるのが近道です。
2025年6月1日に本格施行された食品衛生法ポジティブリスト制度の下では、食品接触部に使える物質が絞られました。
だからこそ、簡易の合成樹脂や新うるしは、食品が直接触れる部分では原則から外れます。
新うるしは天然漆ではなく、カシューナッツ殻由来成分や合成樹脂を主原料とする工業塗装向けの塗料で、漆かぶれしにくい反面、食器用に設計された材料ではありません。
本漆を選ぶ理由はここにあります。
高価な器や思い入れの強い器ほど、多少時間がかかっても本漆で直すほうが、あとで使う場面で迷いません。
飾り・インテリア・練習用なら簡易で十分
飾り棚に置く、インテリアとして楽しむ、まずは練習したい、という用途なら簡易が合理的です。
簡易金継ぎはエポキシ系などの合成樹脂で接着や穴埋めをし、新うるしで仕上げるので、5,000円前後から始めやすく、1〜2日で形になります。
自分が初めて手にした簡易キットで小皿を直したときも、仕上がった達成感は大きかったのですが、結局は飾り棚に置くだけになりました。
用途を先に決めていれば、迷いも少なかったはずです。
簡易は「安く速く試したい」という目的に強く、失敗しても経験値が残ります。
しかも、練習や試作で感覚をつかんでから本漆へ進む道もあります。
食器としては原則不可でも、食品が触れない部分の修復や、食器対応をうたう簡易キットなら選択肢になりますが、基本線はあくまで飾り・学習向けと考えるのがすっきりします。
ここで無理に食器用途へ寄せないほうが、工程も材料も無駄になりません。
3方式の費用・期間・安全性ひと目比較表
3方式を横並びで見ると、選び方はさらに明快になります。
簡易は低コスト・短期間で始めやすく、本漆は費用も期間もかかる代わりに食器用途へ強い。
簡漆はその間をつなぐ方式で、下地の一部を合成樹脂で時短しながら、仕上げの漆らしさを残せます。
どれが上かではなく、何に使うかで機械的に選ぶのがいちばん合理的です。
| 方式名 | 主な材料 | 費用目安 | 所要期間 | 食器への可否 | 難易度 | かぶれリスク |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 簡易 | 樹脂と新うるし | 5,000円前後〜 | 1〜2日 | 原則不可 | 易 | かぶれにくい |
| 簡漆 | 合成樹脂+天然漆 | 8,000〜20,000円 | 2週間〜数ヶ月 | 条件付きで可 | 中 | 注意 |
| 本漆 | 天然漆 | 8,000〜20,000円 | 1〜3ヶ月 | 可 | 難 | かぶれ注意 |
本漆は湿度70〜80%、温度20〜30度前後の室で乾燥を繰り返すため、工程が多くなります。
費用だけ見れば簡易が入りやすく、本漆は高級品で7万円前後に及ぶこともありますが、仕上がった後の使い心地まで含めると評価は変わります。
最終的には、食器なら本漆か簡漆、飾りや練習なら簡易で十分です。
迷う必要はありません。
用途と予算で選べば、金継ぎはきれいに整理できます。
そもそも何が違う?本漆・簡漆・簡易の材料と工程
金継ぎは、使う材料と乾燥待ちの設計で本漆、簡漆、簡易の3方式に分かれます。
食器として安心して使いたいなら本漆か簡漆、見た目を整えて飾る前提なら簡易で十分です。
違いを決めるのは見た目の上品さではなく、接着と下地を何で行い、何回室で乾かすかという工程の重さだと考えると選びやすくなります。
| 方式名 | 主材料 | 費用目安 | 所要期間 | 食器可否 | 難易度 | かぶれリスク |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 本漆金継ぎ | 生漆、麦漆、刻苧、錆漆、金・銀・プラチナ粉 | 8,000〜20,000円中心、高級品は7万円前後 | 1〜3ヶ月、半年かかる場合もある | 可 | 高い | 高い |
| 簡漆金継ぎ | 接着・下地に合成樹脂、仕上げに天然漆 | 中程度 | 数週間〜1ヶ月前後 | 可 | 中程度 | 中程度 |
| 簡易金継ぎ | エポキシ系樹脂、新うるし、金属粉 | 5,000円前後〜、本の付録は5,000円以下も | 1〜2日、最短1日 | 非推奨 | 低い | 低い |
目的別おすすめ早見表
食器に使う器なら、本漆か簡漆を選ぶのが筋です。
飾り物やインテリア、練習用なら簡易で十分で、最短1日で形にできる軽さが強みになります。
思い出の器を長く使いたいなら本漆、時間と安全性の折り合いを付けたいなら簡漆、と割り切ると迷いません。
| 使い方 | おすすめ方式 | 理由 |
|---|---|---|
| 食器に使う | 本漆 / 簡漆 | 口に触れる部分の安心感を取りやすい |
| 飾り・インテリア | 簡易 | 速く安く仕上がり、見た目を整えやすい |
| 思い出の器 | 本漆 | 材料も工程も本格的で、修復の重みが出る |
| とにかく安く速く | 簡易 | 5,000円前後で始めやすく、工程も短い |
| ほどよく実用性も欲しい | 簡漆 | 乾燥待ちを減らしつつ仕上げは天然漆にできる |
本漆金継ぎ:天然漆だけで接着・下地・仕上げ
本漆金継ぎは、接着から下地、仕上げまで天然漆だけで組み上げる方式です。
割れ目の接着には小麦粉と水と生漆を練った麦漆を使い、欠けの穴埋めには木粉や砥粉を混ぜた刻苧や錆漆を使います。
合成樹脂を一切使わないぶん工程は繊細で、麦漆を初めて練ったときに固さの加減が分からず、接着がわずかにずれたことがある。
あの一手で仕上がりが変わる感覚は、本漆の難しさそのものです。
この方式が食器向きとされるのは、完全硬化した天然漆が熱、水、アルコール、弱酸に耐える強い被膜になるからです。
ただし、その力を引き出すには湿度70〜80%・温度20〜30度前後の室で、塗っては乾かす工程を何度も重ねなければなりません。
工程が10前後に及ぶのも自然で、時間をかけるほど強くなる。
思い入れのある器を本気で直したい人におすすめです。
簡漆金継ぎ:合成樹脂で時短し仕上げは本漆
簡漆金継ぎは、接着や下地を合成樹脂で済ませ、仕上げの塗りだけ天然漆を使う「いいとこ取り」の方式です。
本漆ほど長く室で待たずに進められるので、作業の重さがぐっと下がります。
実際、接着だけ樹脂に置き換えたら乾燥待ちが数日短縮でき、最後は天然漆で口元を整えられて安心感が残りました。
時間を削りつつ、触れる部分の納得感を残したい人向けです。
本漆の繊細さと簡易の手軽さ、その中間に置けるのが簡漆だと考えると分かりやすいでしょう。
食器として使う可能性を残したいが、半年単位の工程は避けたい、という場面で効いてきます。
費用も本漆より抑えやすく、作業の心理的なハードルも低い。
中途半端ではなく、目的がはっきりした合理的な選択肢です。
簡易金継ぎ:樹脂と新うるしで最短仕上げ
簡易金継ぎは、エポキシ系などの合成樹脂で接着と穴埋めを行い、仕上げに新うるしを塗る方式です。
実作業は2時間程度で済み、あとは硬化待ちが中心なので、最短1日で形にできます。
新うるしは天然漆ではなく、カシューナッツ殻由来成分や合成樹脂を主原料とする合成塗料で、かぶれにくさと手軽さを優先した素材です。
飾り物や練習用には、これで十分に役立ちます。
ただし、食品接触部には向きません。
2025年6月1日に本格施行された食品衛生法ポジティブリスト制度では、安全性が確認された物質のみ食品接触部に使えるため、簡易の合成樹脂や新うるしは食器の内側に使えないのが基本です。
仕上げ粉も、食品安全性が確認されているのは金・プラチナ・銀の3種で、簡易キットの金色に多い真鍮粉や銅粉、錫粉は別物だと見ておくと迷いません。
銀は硫化で黒変しますが、それも味わいになります。
電子レンジと食洗機はどの方式でも避け、手洗いで使うのが長持ちのコツです。
『新うるし』の正体:本物の漆との決定的な違い
新うるしは、名前に「うるし」と付いていても天然漆ではなく、カシューナッツの殻由来成分や合成樹脂を主原料にした合成塗料です。
漆の主成分ウルシオールを含まないため、作業時の漆かぶれは起きにくいですが、その事実だけで食器としての安全性まで保証されるわけではありません。
むしろ大事なのは、そもそも何のために作られた塗料かという出発点です。
新うるしは漆ではなく『漆風』の合成塗料
新うるしは、見た目や用途の印象こそ漆に近づけていますが、素材としては天然漆の仲間ではありません。
釣り具など工業製品の塗装用に開発された経緯があるので、食器の食品接触部に使う前提で設計されていないのです。
授業で「新うるしは漆ですか」と聞かれるたび、原点が釣り具用塗料だと伝えると驚かれるのですが、その反応こそ違いの大きさを示しています。
見た目が似ていても、使われ方の思想がまったく違うのです。
この違いは、メーカーの注意書きにもはっきり表れます。
「食品に直接触れる部位の塗装には適しません」と明記する製品があるのは、装飾性や工業用途では成立しても、口に入る前提まで含めた設計ではないからです。
ここを曖昧にすると、「漆っぽいから安心」という誤解が生まれます。
名称よりも、用途設計を見て判断しましょう。
かぶれにくい反面、食品接触の安全性は別問題
新うるしはウルシオールを含まないので、天然漆のような漆かぶれは起きにくい塗料です。
ただし、かぶれにくさはあくまで肌トラブルの起こりやすさの話で、食品接触の安全性とは別軸になります。
自分も本漆を扱ってかぶれた経験がありますが、新うるしではそうならなかったことがあり、そこで初めて「刺激が少ないこと」と「口に入れてよいこと」は同義ではないと実感しました。
安全性を語るときは、肌と口の話を分けて考える必要があります。
ℹ️ Note
かぶれリスクが低い塗料でも、食器の内側や口縁に使ってよいとは限りません。肌にやさしいことと、食品に触れてよいことは別です。
実際、食品接触部に使う前提でない以上、器の内側や口をつける部分には向きません。
漆器の修理や塗り分けでも、見える面の仕上がりと食に触れる面の判断は分けて扱います。
新うるしは「扱いやすい塗料」ではあっても、「食器用の安全な漆」と読み替えてはいけないのです。
本漆の硬化被膜が食器に強い理由
本漆は十分に硬化すると、ウルシオールが反応して強固な被膜になります。
この被膜は熱・水・アルコール・弱酸に耐え、日常の食卓で繰り返し使われることを前提にした強さを持ちます。
漆器が何百年も食卓で使われてきたのは、単なる伝統ではなく、実際に口をつける道具として機能してきた歴史があるからです。
新うるしの乾燥が数時間〜1日と速いのは、天然漆の硬化原理とはまったく別物です。
速く乾くこと自体は作業上の利点ですが、だからといって本漆のような耐久性や食器適性が自動的に生まれるわけではありません。
生徒に「では、見た目が似ていれば同じですか」と返すと、そこでようやく違いが腑に落ちることが多いものです。
おすすめの理解の仕方は、新うるしは漆風の合成塗料、本漆は食卓で育った天然の塗膜と分けて覚えることです。
費用・期間・難易度で徹底比較
費用と期間、そして手間の三つを並べると、簡易、本漆、簡漆の違いはかなりはっきりします。
簡易キットは導入のしやすさが魅力で、本漆は本格的な仕上がりと引き換えに時間と管理が必要になる方式です。
どれを選ぶかは、最初に何を優先するかで決まります。
初期費用とキットの中身の差
簡易キットは5,000円前後が目安で、本の付録なら5,000円以下で始められるものもあります。
付属の新うるし、真鍮粉、接着剤で作業が完結し、追加道具がほぼ不要なのが強みです。
初期投資を抑えやすいので、まず試してみたい人に向いています。
本漆キットは8,000〜20,000円が中心で、高級品になると7万円前後まで上がります。
値段の差は、単に素材の違いだけではなく、工程の多さに耐えるだけの道具や材料が含まれるかどうかにも表れます。
教室で扱う場面でも、簡易キットはその場で形にしやすく、本漆は継続的に使う前提の構成になることが多いです。
プロに依頼する場合は、破損状態と仕上げで相場が変わります。
小さな欠けは数千円から、割れや複雑な破損は1万円以上が目安です。
自分で直す費用と、作品としての完成度を買う費用を分けて考えると、判断しやすくなります。
完成までの日数と作業時間
完成までの速さは、簡易が1〜2日、本漆が1〜3ヶ月という差にそのまま表れます。
梅雨と冬で本漆の進み方が大きく違い、初めて扱ったときに戸惑った経験がありますが、この差の正体は乾燥待ちの積み重ねです。
塗るたびに湿度70〜80%・温度20〜30度前後の「室」環境で乾かす必要があるため、作業そのものより待機時間が長くなります。
本漆は半年に及ぶこともあり、急いで完成させる工程ではありません。
逆に言えば、時間をかけるほど仕上がりに深みが出る方式でもあります。
毎回の工程を区切って進めるため、計画を立てて少しずつ積み上げる作業が向いているのです。
教室運営でも、この時間差ははっきり出ます。
簡易キットなら1回の講座で完成まで持っていけますが、本漆は数回通う前提になります。
短期で達成感を得たいなら簡易、工程を楽しみながら学ぶなら本漆、と考えると選びやすいでしょう。
初心者のつまずきやすさ・やり直し
難易度で見ると、簡易は「接着して塗るだけ」に近く、初心者でも失敗しにくい方式です。
工程が少ないぶん、形が崩れても短時間で立て直せます。
まず感覚をつかみたい人にはおすすめです。
本漆は工程が多く、乾燥管理や漆の扱いに慣れが要ります。
ひとつの工程に日数がかかるので、塗りすぎや待ち不足がそのまま仕上がりに響きます。
簡漆はその中間で、接着の手間を減らしつつ、仕上げの天然漆だけを習得すればよい位置づけです。
段階を踏んで学ぶなら、ここがちょうどよい橋渡しになります。
やり直しのしやすさも、方式選びでは見逃せません。
簡易は短時間で再挑戦できるため練習向きで、本漆は1回の工程に日数がかかるので慎重さが求められます。
初挑戦なら簡易で感覚を掴み、大切な食器は本漆や教室で進める、という分け方が実用的です。
おすすめは、この順番で試してみてください。
食器に使うなら必読:2025年食品衛生法改正の影響
2025年6月1日に食品衛生法のポジティブリスト制度が本格施行され、食器や器具の食品が直接触れる部分には、安全性が確認された物質だけを使う考え方に切り替わりました。
リストにない物質は原則として使えず、これまで「使えそう」と思われていた素材でも、食品接触部では扱えない場面がはっきりしました。
簡易金継ぎを食器に使う判断は、ここで前提が変わったのです。
ポジティブリスト制度とは何が変わったか
改正前後で生徒から最も増えた相談は、「簡易で直した食器をこのまま使っていいか」というものでした。
現場で見ても、手軽さを優先して新うるしや合成樹脂を選ぶ流れは強かったため、制度施行後に迷いが一気に表面化した印象です。
食品衛生法のポジティブリスト制度は、食品に触れる部位に使える素材を安全性確認済みのものに絞る仕組みで、ここが食器修復の実務に直結します。
簡易金継ぎが食器に原則使えなくなった理由
この制度により、簡易金継ぎで使う合成樹脂や新うるしの多くは、食器の食品が直接触れる部分には原則使えなくなりました。
理由は単純で、制度が「食品接触部」を強く意識しているからです。
割れや欠けを埋める工程そのものより、修復後に口に触れる面、汁が当たる面、盛り付け面が新しい基準の対象になる点を押さえる必要があります。
だからこそ、以前は同じ感覚で選ばれていた簡易でも、食器用途では見直しが必要になります。
ただし、簡易金継ぎが全面的に使えなくなったわけではありません。
飾り皿、花器、食品が触れない外側や高台への使用なら、今も選択肢になります。
食器か工芸品かで扱いが分かれるので、用途を曖昧にしたまま素材を決めないことが大切です。
漆芸の基本と同じく、どの面に何が触れるかを先に見極めるのが近道でしょう。
『食器に使える簡易キット』の表記確認ポイント
近年は「食品衛生法370号ポジティブリスト適合」をうたう食器対応の簡易キットも登場しています。
自分でも食器対応を名乗るキットの表記をいくつか見比べ、適合品とそうでない品は、説明文の細部でかなり分かれると実感しました。
たとえば、食器の食品接触部に使える前提がはっきり書かれているか、対象が装飾用途に限られていないか、成分や用途説明があいまいでないかが見分けの軸になります。
ここで見るべきなのは、パッケージの見栄えではなく言葉の精度です。
食器に使いたいなら、表面だけの「金継ぎ風」表現で判断せず、食品衛生法370号ポジティブリスト適合の表記がどこまで具体的かを確認しましょう。
適合をうたう製品が増えたことで選択肢は広がりましたが、同時に読み落としのリスクも増えています。
おすすめは、食品接触部への適合が明記されたものを前提にし、曖昧な商品は避けることです。
そこを丁寧に見れば、改正後でも納得できる簡易の選び方ができます。
仕上げ粉の選び方:金・銀・真鍮の違いと安全性
食器に蒔く仕上げ粉は、見た目の華やかさだけで選ぶと後悔しやすい。
口元に触れる器なら、食品安全性が確認されている金・プラチナ・銀の3種を軸に考えるのが基本で、しかもこの中で単価が最も安いのは銀粉です。
予算を抑えたいのか、変色しにくさを優先したいのかで選択が変わるので、色味と経年変化まで含めて見ておく必要があります。
食器に使える金属粉は金・プラチナ・銀
天然漆に蒔く金属粉で、食器利用まで見据えて安心して扱えるのは金・プラチナ・銀の3種です。
口に触れる器では、塗った直後の見栄えだけでなく、漆面との相性や長く使ったときの安定性が問われます。
だからこそ、色が似ている粉どうしでも同列には扱えません。
金は落ち着いた黄味、プラチナは硬質で冷たい輝き、銀は明るい白味と、それぞれ役割が違います。
費用の面では金が最も高く、次にプラチナ、最も手に取りやすいのが銀粉です。
安全性だけを見れば3種とも食品安全性が確認されているため、あとは器の用途と予算の折り合いになるでしょう。
日常使いの椀や皿なら銀で試し、特別な一碗には金を選ぶ、という組み立て方も自然です。
前の工程で方式を選ぶのと同じで、仕上げ粉も「何に使うか」から逆算すると迷いません。
簡易キットの金色は真鍮粉が中心
簡易キットに入っている「金色の粉」は、実際には真鍮粉であることが多いです。
真鍮粉は見た目が金に近く、練習用や飾りには扱いやすい反面、金属臭が出やすく、酸に触れると変色もしやすいので、食器の口元には向きません。
銅粉や錫粉も同じく食品安全性の試験が行われておらず、金色に見えるからといって食器向けとは言い切れないのです。
教室でも、真鍮粉で仕上げた湯のみが数ヶ月で曇っていく様子を見て、受講生が「金属の経年変化」をはっきり体感する場面があります。
銀継ぎの黒変と並べると、金属は時間とともに表情が変わるのだと実感しやすい。
練習用としては十分でも、口元に使う器では用途を分けるのが賢明です。
手軽さは魅力ですが、そのまま安全性の保証にはなりません。
色味と経年変化で選ぶ
銀粉は名前の通り銀色で、食品安全性が確認されている金属粉の中では最も安いです。
ただ、銀は時間とともに硫化して黒っぽく変色します。
この変化を弱点と見るか、渋い味わいと受け止めるかで、選ぶ粉は変わります。
変わらぬ輝きを求めるなら金やプラチナ、手元で育つ風合いを楽しむなら銀。
ここは好みがはっきり分かれるところです。
実際に、銀粉の硫化を逆手に取って、わざと黒く育てた器があります。
最初は光っていた銀が、使うほどに深い灰色へ沈んでいき、漆の艶と重なって渋みが増していく。
あの変化は派手さこそないものの、器が暮らしの中で少しずつ馴染んでいく感覚をくれます。
食器に使うなら天然漆+金・プラチナ・銀のいずれかが王道で、飾りや練習なら真鍮粉でコストを抑える。
用途を分けて選べば、仕上げはぐっと組み立てやすくなります。
直した器を長持ちさせる扱い方
修復した器を長持ちさせるいちばんの近道は、直後の扱いを急がず、熱と水の負担を減らすことです。
金継ぎは見た目が整っていても、接合部や被膜がまだ育っている途中なので、強い洗浄や急な温度変化を避けるだけで持ちが変わります。
方式ごとの強さの差もあるため、同じ「直した器」でもケアの加減は少し変えるとよいでしょう。
電子レンジ・食洗機がNGな理由
電子レンジと食洗機は、簡易金継ぎでも簡漆でも本漆でも避けます。
とくに電子レンジは、蒔いた金属粉が火花を散らし、火災の原因になり得るため使ってはいけません。
食洗機も、強い水圧と高温が接合部に繰り返し当たり、せっかく固めた継ぎ目を浮かせやすいからです。
教室でも、直した器をうっかり食洗機に入れて剥離させた生徒がいました。
あの失敗を見てから、手洗いの徹底を最初に伝えるようになりました。
機械に任せると早いようでいて、修復した器には負担が積み重なるのです。
特に金継ぎは「見た目が完成してからが本番」だと覚えておくと、扱い方がぶれません。
簡易と本漆で違う耐久性とケア
簡易金継ぎは本漆より強度が落ちるため、同じ器でもより丁寧な扱いが必要です。
飾りとして楽しむ使い方に寄せ、毎日の実用品としては負荷をかけすぎないほうが安心でしょう。
軽い補修だからこそ、安心して使い込みすぎるのがいちばんの落とし穴になります。
本漆で直した器も、最初の数週間は被膜が安定しきっていません。
強い摩擦や高温を避けると、漆が落ち着いてからの耐久が出やすくなります。
実際に本漆で直した飯碗を10年以上、手洗いだけで使い続けたことがありますが、被膜は少しずつ育ち、艶も増していきました。
修復直後の養生期間を守ることが、器を長く育てるいちばんの近道です。
長く使うための日常の扱い
日常の扱いで意識したいのは、急冷急熱とつけ置きを避けることです。
熱湯を直接注ぐ、冷蔵庫から出してすぐ熱いものを入れる、といった動きは接合部に大きな負担をかけます。
洗うときも、長時間水に浸けたままにせず、やわらかいスポンジで手洗いするのが基本です。
使い方を少し変えるだけで、直した器は驚くほど持ちます。
雑に扱わず、食卓ではいつも通りに使い、洗うときだけひと手間を足す。
その積み重ねが、金継ぎの景色を守りながら器を暮らしに戻してくれるのです。
大切なのは、直したから終わりではなく、直したあとにどう育てるかです。
漆芸家の父に師事し、金継ぎ・蒔絵の技法を幼少期から学ぶ。木工所での修業を経て独立。自身の工房で漆器の修復と木彫り作品の制作を手がけながら、金継ぎ教室を主宰。額装は独学で習得し、木彫り作品を自ら額装して展示する。
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